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日本の金鉱山は菱刈だけ?鹿児島・北海道で相次ぐ高品位発見

日本の金鉱山は菱刈だけ?鹿児島・北海道で相次ぐ高品位発見

2026年8月、こんな報道が出ました。国内で半世紀ぶりに、新しい金鉱山が生まれるかもしれない。鹿児島と北海道で、金を濃く含む岩が相次いで見つかっている、という内容です。

ちなみに現役の菱刈鉱山が金を出し始めたのは1985年。2026年時点で41年です。

さち
さち

そもそも日本って、まだ金が採れるんですか?

こうじ
こうじ

掘っている鉱山は、今も1つだけです。ただ、探している人はちゃんといます。

日本の金鉱山は、いまも菱刈ひとつ

日本で商業規模の操業を続ける金鉱山は菱刈だけで、北海道と鹿児島では探鉱が続いていることを示す図解

商業規模で金を掘り続けている日本の鉱山は、鹿児島県伊佐市の菱刈鉱山(住友金属鉱山)だけです。1985年から、いまも操業が続いています。

鉱石1トンに含まれる金は、平均で約20グラム。住友金属鉱山は、世界の主要な金鉱山の平均を3〜5グラムとしたうえで、菱刈はその4〜7倍だと説明しています(出典:住友金属鉱山「菱刈鉱山」)。

世界全体の話は金はどこで採れる?世界の鉱山・採掘量とあと何年掘れるかにまとめました。ここでは日本の話に絞ります。

それでも、探すこと自体は止まっていない

ここ数年の発表を見ていくと、昔の鉱山のまわりで試し掘り(試錐)が続いていることがわかります。細い穴を地下に開けて、出てきた岩を分析する調査です。

発表時期場所主体報告された金の濃さ
2019年5月北海道雄武町・Omu SinterIrving Resources0.32mで118.5 g/t(銀1,410 g/t)
2025年7月北海道・鴻之舞鉱山地区(白竜)Japan Gold(Barrickが掘削費を負担)穴の入口から103.8m進んだ地点の0.60mで24.1 g/t
2025年10月北海道雄武町・OmuiIrving Resources26.38mで平均2.50 g/t、うち2.00mが24.22 g/t
2026年3月鹿児島県霧島市・山ヶ野金山跡Newmont/住友商事/Irvingの合弁4.00mで6.27 g/t、うち0.48mが46.10 g/t
2026年6月北海道雄武町・Omu SinterIrving Resources(JX金属が資金拠出)47.70mで0.98 g/t、うち7.00mが4.05 g/t、さらに1.05mが10.68 g/t

出典:Irving Resources(2025年10月31日)同(2026年3月2日)同(2026年6月25日)Japan Gold(2025年7月9日)

数字の読み方は次の章で説明します。ここでは2019年から2026年まで、断続的に発表が続いているという点だけ見てください。

探している主体も、報道の印象とは少し違います。

さち
さち

外国の会社が日本の金を掘り当てた、という話ではないんですか?

こうじ
こうじ

そう単純でもないんです。鹿児島の山ヶ野金山跡は、権益の6割がNewmont。住友商事も入っています。

山ヶ野金山跡は、鹿児島県霧島市にある旧鉱山の跡地です。報道では「カナダの探鉱会社」の発見として語られますが、2026年3月の発表によれば、権益はNewmont(米)が60%、住友商事が12.5%、Irving Resourcesが27.5%です。

この山ヶ野金山そのものは、寛永17年(1640年)に見つかりました。江戸期には国内一の産金量を誇っています。霧島市の広報によれば、昭和28年(1953年)の休山までに、金銀あわせて80トンを産出したとされています(出典:広報きりしま 2026年1月号)。

そのあとの経緯も、かんたんに触れておきます。戦時中の1943年にいちど休山。1950年に再開したものの、新しい鉱脈は見つかりませんでした。1953年の休山を最後に、操業が戻ることはありません。1957年には島津興業が試し掘りをしていますが、再開には至らず、1965年に正式な閉山となっています。

「46.10 g/t」は何を意味するのか

46.10g/tの0.48m区間と6.27g/tの4.00m区間を比べ、品位と区間長をセットで見る必要を示す図解

山ヶ野で報告された46.10 g/tは、表のなかでも目を引く数字です。ただ、金の濃さの数字は、単独で見ると必ず大きく見えます。

g/t は「1トンの岩に何グラム入っているか」

g/t(グラム・パー・トン)は、調べた岩1トンあたりに何グラムの金が入っているかを示す数字です。専門用語では品位といいます。46.10 g/tなら、その岩1トンの中に46.10グラム相当の金が含まれている、ということです。世界の主要鉱山の平均が3〜5グラムですから、たしかに桁違いです。

さち
さち

じゃあ1トン掘れば、46グラムもらえるということですか?

こうじ
こうじ

そこは違います。あくまで「どれくらい濃いか」の話で、手元に残る量ではありません。

実際に取り出せる量は、これより少なくなります。理由は2つです。

  • 掘るときに、金の入っていない周りの岩まで一緒に取り込んでしまう
  • 砕いて選り分け、溶かして取り出す過程で、どうしても取りこぼしが出る

品位は、あくまで出発点の数字です。

濃さと一緒に「何メートル分か」を見る

そもそも、地下の金はどうやって調べるのか。手順はこうです。

  • 地面から斜めに、細い穴を掘り進める(ボーリング)
  • 掘った跡から、細長い円柱状の岩が抜き取れる。これをコアという
  • コアを深さの順に並べ、区間ごとに切り分けて、金の濃さを分析する

この章の冒頭にある図の、2本の円柱がそのコアです。オレンジ色の帯が、切り分けて分析した区間にあたります。

だから発表資料には、濃さとセットでその濃さが何メートル続いたかが必ず書かれています。ここが読みどころです。

山ヶ野の46.10 g/tは、0.48mぶんの値です。穴に沿って434.52mから435.00mまでの部分にあたります。

このメートルは、地表からの深さではありません。斜めに掘り進んだ穴に沿って測った長さです。金を含む部分が実際にどれくらいの厚みなのかは、穴1本では決まりません。

同じ穴でもっと広く見ると、数字は下がります。1.00mぶんで23.36 g/t。4.00mぶんなら6.27 g/tです。金の少ない部分まで一緒に平均すれば、こうなります。数字が悪くなったわけではありません。

濃さに長さを掛けたグラム・メートルという目安もあります。比較の入口として挙げてみます。

発表濃さ × 長さグラム・メートル
山ヶ野(2026年3月)46.10 g/t × 0.48m約22
山ヶ野(同・広い区間)6.27 g/t × 4.00m約25
Omu Sinter(2019年)118.5 g/t × 0.32m約38
Omui(2025年10月)2.50 g/t × 26.38m約66
Omu Sinter(2026年6月)0.98 g/t × 47.70m約47

見出しに載りやすいのは118.5という数字です。でも掘る量まで含めて眺めると、印象はずいぶん変わります。

さち
さち

つまり、どういうことですか?

こうじ
こうじ

濃さと、それが何メートル続いたか。この2つはいつもセットで見る、ということです。

もっとも、この目安だけで有望さの順位が決まるわけでもありません。金を含む部分がどの深さにどう広がり、どこまで続いているか。そこが見えて初めて、開発の話ができます。私が「46.10 g/t」を見たとき最初に確認するのは、その隣の長さのほうです。

なぜ日本の金鉱床は、濃くなりやすいのか

200〜300℃の熱水が金を運び、沸騰に伴う条件変化で金が石英脈に沈殿する流れを示す図解

日本の金鉱床の多くは浅熱水性鉱床と呼ばれるタイプです。地下の熱い水がつくった鉱床、という意味だと思ってください。菱刈も、山ヶ野も、鴻之舞も、雄武もこの仲間です。火山列島であることが、そのままタイプを決めています。

金は、熱い水の中で硫黄と手を組む

金は水に溶けない金属、というイメージがあります。実際、常温の水にはまず溶けません。

ところが地下数百メートル、200〜300℃の熱水の中では話が変わります。硫化水素が溶け込んだ熱水の中で、金は硫黄とくっついた形になります。この状態なら、溶けたまま移動できます。地下の熱水は、金を運ぶ乗り物のようなものです。

沸騰すると、金は溶けていられなくなる

その熱水が地表近くまで上がってくると、圧力が下がって沸騰します。

すると硫化水素が気体になって抜けていきます。同時に、水の性質(酸性の度合いなど)も動きます。金と硫黄の組み合わせはこの変化に弱く、金は溶けていられなくなって沈みます。石英の脈の中に、金の粒として。

ただし、鉱脈が一度でできたわけではありません。別の水が混ざり、冷え、まわりの岩と反応する。そうしたことが何度も繰り返されて、いまの姿になったと考えられています。

さち
さち

どうして、そんなに狭いところに集まるんですか?

こうじ
こうじ

金が沈むための条件がそろう場所が、限られているからです。だから濃い部分は数十センチだったりします。

数字が狭い範囲に偏るのは、地質のいたずらではありません。化学的に理由のあることです。

珪華は、熱水の出口が残った跡

「Omu Sinter」のsinterは珪華(けいか)を指します。温泉が地表に噴き出し、溶けていたシリカが固まってできた堆積物です。温泉地で見かける、あの白い層のことです。

珪華が残っているということは、かつてそこに熱水の出口があった証拠になります。探す側にとっては有力な手がかりです。地表の白い層をたどって、その下にあるはずの金の通り道を探しにいく。地質図の読み方としては、なかなか気持ちのよい話です。

菱刈がすごいのは、濃さだけが理由ではない

菱刈鉱山の平均品位約20g/t、累計産金量272.6トン、可採金量約154トンを独立した指標として示す図解

濃い部分そのものは、世界中で見つかります。日本でも、上の表のとおり報告は続いています。

それでも菱刈が特別視されるのは、濃いうえに、量もまとまっていたからです。1981年に鉱床が見つかり、1985年に採掘が始まりました。累計産金量は272.6トン(2025年3月末時点)。住友金属鉱山は、2024年12月末時点でまだ約154トン掘れるとしています(出典:住友金属鉱山 2026年3月31日 ニュースリリース)。

同じ国内で見ると、佐渡金銀山は江戸時代からの400年間で金78トンです(出典:さど観光ナビ)。菱刈の数字の大きさがわかります。

ただし、累計産金量は濃さだけで決まるものではありません。どれだけ掘ったか、どれだけ取り出せたか、設備の規模、操業した年数。いろいろな条件が効いてきます。単純な優劣の比較にはなりません。

ふつう、金の濃い部分は「濃いが続かない」ものです。数十センチの濃い部分に当たっても、少し掘れば消えてしまう。菱刈が異例だったのは、その濃い部分が使える規模でまとまっていたことでした。

新しい発見を見るときも、この順番は変わりません。まず濃さ、次に量、そして続き方です。

「新金山」までに残っている距離

試錐、資源量推定、経済性評価、鉱石埋蔵量、開発という新金山までの5段階を示す図解
さち
さち

けっきょく、新しい金鉱山はできるんですか?

こうじ
こうじ

まだわかりません。順番でいうと、いちばん最初の段階にいます。

各社が発表しているのは、試し掘りで濃い部分を見つけたという段階の情報です。

ここから鉱山になるまでには、決まった順番があります。

  • まず、地下にどれだけの金があるかを見積もる。これを資源量という
  • 次に、採算が合うかを検討する
  • そこで残った分が、ようやく鉱石埋蔵量になる

掘る判断ができるのは、そのあとです。2026年8月時点では、どのプロジェクトも最初の見積もりにも届いていません。関門は、まだいくつも残っています。

それでも、Newmontは山ヶ野の合弁に加わり、白竜の2025年の掘削費用はBarrickが負担しました。世界的な鉱山会社が日本の昔の鉱山に資金を出している。そこは事実として残ります。

よくある質問

Q. 現在の日本の金鉱山はどこですか?

商業規模で掘り続けているのは、鹿児島県伊佐市の菱刈鉱山(住友金属鉱山)だけです。1985年から操業が続いています。このほか鹿児島県霧島市の山ヶ野金山跡と、北海道の雄武町・鴻之舞鉱山地区でも動きがあります。ただしこちらは試し掘りで調べている段階で、まだ鉱山ではありません。

Q. 日本で唯一の金鉱山はどこですか?

菱刈鉱山です。鉱石1トン中に含まれる平均金量は約20グラム。住友金属鉱山は、世界の主要な金鉱山の平均を3〜5グラムとしています。坑道の一般公開はしていません。

Q. 日本の三大金山は?

決まった定義はありません。産出量で比べると、菱刈鉱山(鹿児島)、佐渡金銀山(新潟)、鴻之舞金山(北海道)の3つが挙げられることが多いです。菱刈の累計産金量は272.6トン(2025年3月末時点)、佐渡金銀山は江戸時代からの400年間で金78トン、鴻之舞金山は約73トンです。佐渡と鴻之舞はすでに閉山しています。

Q. 日本で一番金が取れる場所は?

現役の鉱山では菱刈鉱山です。1985年からの累計産金量は272.6トン(2025年3月末時点)で、江戸時代からの400年間に金78トンを産出した佐渡金銀山を上回ります。住友金属鉱山は、2024年12月末時点でまだ約154トン掘れるとしており、2025年度の産金量は3.5トンを計画しています。

Q. 高品位の鉱石が見つかれば新しい金鉱山になりますか?

すぐにはなりません。試し掘りで濃い部分を見つけた段階と、鉱山として成り立つ段階のあいだには、いくつも段階があります。まず地下にどれだけの金があるかを見積もり(資源量)、次に採算が合うかを検討し、そこで残った分がようやく鉱石埋蔵量になります。2026年8月時点では、どのプロジェクトも最初の見積もりにも届いていません。

まとめ

現役は菱刈だけ、鹿児島と北海道で高品位の試錐が続く一方、開発はこれからであることをまとめた図解

日本の金鉱山は、いまも菱刈ひとつです。その足元で、鹿児島の山ヶ野金山跡と北海道の昔の鉱山地区で、濃い金の報告が続いています。46.10 g/tも118.5 g/tも実在する数字です。ただ、どちらも1メートルに満たない部分の値でした。そこから鉱山までの距離は、まだ残っています。

その狭さ自体にも、理由がありました。地下で硫黄と手を組んで運ばれた金が、沸騰にともなう変化で溶けていられなくなり、その場に落ちる。日本の金が濃いのは、火山列島であることの結果です。

もし数年後に本当に新しい金鉱山が動き始めたら、それは資源のニュースであると同時に、日本列島の成り立ちを確かめる話でもあると思います。半世紀ぶりの続報を、私はそういう目で待つつもりでいます。

あなたなら、この一連の発表を、資源の話として読みますか。それとも地質の話として読みますか。

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